ハメ組から学ぶ組織の改善点と交渉術|HUNTER×HUNTER・G.I編を組織論で考える


『HUNTER×HUNTER』のグリードアイランド編には、通称「ハメ組」と呼ばれる大規模なプレイヤー集団が登場します。

ハメ組は多数のプレイヤーで協力してカードを集め、ゲームクリアを目指す組織でした。

その攻略はかなり順調で、ゲンスルーが正体を明かすころには、指定ポケットカード100種類のうち90種類まで集めています。

ところが、内部に潜んでいたゲンスルーが自分こそ「爆弾魔(ボマー)」だと明かしたことで状況は一変。

最終的にはゲンスルー、サブ、バラのわずか3人にカードを奪われ、アベンガネを除いて壊滅してしまいます。

一見すると、

「ゲンスルーが強すぎたから仕方がない」

で終わる話にも見えます。

実際、ゲンスルーだけでなく、サブやバラもかなりの実力者です。

サブはビスケの修行を受けたキルアを相手に戦えるほどのオーラを持ち、バラもビスケと戦闘になる程度の実力があります。

そのため、

「数十人いるのだから、一人を囲んで倒せばよかった」

と単純に考えるのも難しいでしょう。

念能力者同士の戦いでは、人数がそのまま戦闘力になるとは限らないからです。

では、ハメ組には本当に何もできなかったのでしょうか。

改めて作中の状況を整理すると、ハメ組には人数、カード、スペル、情報といった、まだ使える資源がかなり残されていました。

今回はハメ組をひとつの「組織」として見て、

どこに問題があり、どう動けば壊滅を避けられたのか

を考えてみます。

ハメ組とは?

ハメ組は、ニッケスたちが中心となって作ったグリードアイランド攻略集団です。

一人で100種類の指定ポケットカードを集めるのではなく、大人数で役割分担してカードを集めることで攻略を効率化しました。

さらにスペルカードも大量に確保することで、他プレイヤーとのカード争奪でも有利な状態を作っています。

長期間にわたる攻略の結果、指定ポケットカードを90種類まで集めることに成功しました。

大人数でカードを集めるハメ組の場面(HUNTER×HUNTER)

つまり、ハメ組の戦略そのものが失敗だったわけではありません。

むしろ通常のゲーム攻略という意味では、かなり合理的です。

問題は、

「カードを集める組織」としては強かったものの、「念能力者同士の危機に対応する組織」にはなっていなかった

ことでした。

ゲンスルーの正体が判明した瞬間、組織が機能しなくなる

ゲンスルーはハメ組の内部に長期間潜伏し、メンバーに「命の音(カウントダウン)」を仕掛けていました。

そしてゲームクリアが近づいた段階で、自分が爆弾魔であることを告白します。

ゲンスルーが自分こそ爆弾魔だと明かす場面(HUNTER×HUNTER)

ここでジスパーがゲンスルーの背後から襲いかかりますが、ゲンスルーは即座に反応。

「一握りの火薬(リトルフラワー)」によってジスパーは重傷を負います。

この一撃は、単に戦力を一人減らしただけではありません。

ハメ組全体に、

「ゲンスルーには力では勝てない」

と思わせる効果がありました。

ここからハメ組は、

「どうやってボマーに対抗するか」

ではなく、

「どうすればゲンスルーに助けてもらえるか」

という思考に切り替わってしまいます。

交渉の主導権を完全にゲンスルーへ渡した瞬間です。

改善点1 強い個人ではなく「指揮官」が必要だった

ジスパーがゲンスルーに飛びかかったこと自体は、勇気のある行動です。

しかし組織として考えると、かなり危険でした。

数十人の仲間がいて、大量のスペルカードも持っている状態で、戦闘要員が単独で敵のリーダーへ突撃しています。

本来必要だったのは、

「誰も勝手に動くな。まず状況を整理する」

と命令できる指揮官でした。

ここで思い浮かぶのがツェズゲラです。

ツェズゲラはゲンスルーより自分たちの戦闘力が劣ると判断したあとも、正面から戦うことに固執せず、移動や時間稼ぎ、カード運用を利用して対抗しています。

ツェズゲラがゲンスルーへの対応を指示する場面(HUNTER×HUNTER)

仮にハメ組の内部にツェズゲラのような指揮役がいたなら、

ジスパーの単独攻撃を止め、

「敵は3人」

「こちらは数十人」

「スペルはこちらが大量に持っている」

「相手の目的はカード」

という情報を一度整理できた可能性があります。

組織では、最も強い人物とリーダーが同じである必要はありません。

非常時に人員と資源を整理して、全員の行動を決められる人間

も必要です。

改善点2 カード集めだけでなく、念能力者としての訓練もするべきだった

ハメ組にはもうひとつ大きな問題があります。

何年もグリードアイランドを攻略しているにもかかわらず、組織全体を戦闘面で底上げした様子がほとんどありません。

グリードアイランドは、そもそも念能力者が参加するゲームです。

さらに作中では「爆弾魔」という危険なプレイヤーの存在も知られていました。

それならカード攻略と並行して、

  • 「堅」を維持した状態での戦闘
  • 「流」による攻防力移動
  • 複数人で行動するときの役割分担
  • 強敵と遭遇したときの撤退
  • スペルを使った集団戦
  • 負傷者を出した場合の対応

などを訓練していてもよかったはずです。

ゴンとキルアも、GI参加直後からゲンスルー級の相手と戦えたわけではありません。

ビスケに出会い、念の基礎から徹底的に鍛えられたことで急速に成長しました。

ハメ組も長期攻略を前提としているなら、カード収集だけでなく、

念の指導ができるハンターを組織に加える

という投資をしてもよかったでしょう。

もちろん、数十人を鍛えたところでゲンスルーたちに勝てたとは限りません。

サブですら修行後のキルアと戦えるほどの実力者です。

戦闘訓練の少ない念能力者を50人集めても、バラ一人を確実に拘束できるとは言えません。

しかし訓練の目的は、全員をゲンスルー級にすることではありません。

危機が起きた瞬間に一人ずつ飛びかかったり、全員がパニックになったりしない程度の集団行動を身につけるだけでも意味があります。

ハメ組はカードという「資産」には何年も投資しました。

その一方で、

その資産を守るための「人材育成」には十分投資していなかった

とも考えられます。

改善点3 ジスパーを救うために「大天使の息吹」を使う

重傷を負ったジスパーに対し、仲間たちは「大天使の息吹」を使って助けようとします。

しかしゲンスルーとの交渉によって、それは実現しませんでした。

ここではカードを失うことを恐れすぎたとも考えられます。

確かに大天使の息吹は非常に貴重な指定ポケットカードです。

使えば90種類集めた進捗が一歩後退します。

しかし、

カード1枚を維持すること

有力な念能力者一人を失うこと

のどちらが重要だったのでしょうか。

カードは再入手できる可能性があります。

死亡した仲間は戻りません。

しかもジスパーが完全回復すれば、単なる人命救助ではなく戦力の回復にもなります。

「ここまで集めた90種類を減らしたくない」という心理が、逆に組織全体の選択肢を狭めていた可能性があります。

これは、これまで投入した時間や資源を惜しむあまり、状況が変わっても方針を変えられなくなる状態にも似ています。

もしゴンであれば、ジスパーが爆破され、ゲンスルーらにリーブで逃げられたあと、迷いなく大天使の息吹を使ったと思います。

改善点4 ゲンスルーが何を欲しがっているのかを考える

交渉で重要なのは、

「自分が何をされたくないか」だけではなく、「相手が何を欲しがっているか」を考えること

です。

ゲンスルーの目的は、ハメ組を殺すことそのものではありません。

最大の目的は、ハメ組が何年もかけて集めたカードです。

そしてGIではプレイヤーが死亡すると、バインダーと指輪が破壊され、その中のカードも失われます。

つまりハメ組側には、実は重要な交渉材料があります。

自分たちが持っているカードそのものです。

全員を爆破すれば、ゲンスルーが欲しがっているカードまで失われる。

そのため、

「カードを渡すので助けてください」

と全面的に相手へ依存するのではなく、

「カードと生存をどう交換するか」

という取引に持ち込む余地があります。

圧倒的に不利な状況でも、相手が必要としているものを自分が持っている限り、交渉力は完全にはゼロになりません。

問題は、ハメ組がその交渉材料を一気に手放してしまったことです。

改善点5 カードを分散し、一括で渡さない

ここでハメ組が特に避けるべきだったのが、

90種類のカードを一括でゲンスルーへ渡すこと

だったと考えられます。

カードを渡してしまえば、ゲンスルー側にはハメ組を生かしておく理由がほとんど残りません。

そこで、まずカードを複数人へ分散させます。

たとえば数人から十数人をカードの管理役にして、それぞれ別のカードを持たせる。

そのうえで、

「一定人数のカウントダウンを解除できたら、一部のカードを渡す」

という段階的な取引を提案します。

「命の音」の本来の解除条件は、

ゲンスルーに触れながら「ボマー捕まえた」と言うこと

です。

つまり正確には、ゲンスルーに能力を解除してもらうというより、

ハメ組側の人間が順番にゲンスルーへ触れ、解除条件を満たすことを許可してもらう

という交渉になります。

たとえば、

10人が解除条件を満たす ↓ カードの一部を渡す ↓ さらに10人を解除 ↓ 次のカードを渡す

というように、取引を小さく区切ります。

もちろんゲンスルーがこの条件を受け入れる保証はありません。

「全部先に渡せ」と脅される可能性もあります。

しかし、カードを分散しておけば、

カードを持ったメンバーを殺せば、そのカードまで失う

という問題がゲンスルー側にも発生します。

少なくとも、

「最初に全資産を渡し、そのあと相手が約束を守ってくれることを祈る」

よりは、ハメ組側に交渉材料を残せます。

現実の交渉でも、一方が相手をほとんど信用できない場合、

先払いを一度に行わず、相手の履行を確認しながら取引を分割する

という方法があります。

ハメ組にも、同じ発想が必要だったのかもしれません。

改善点6 3人を「倒す」のではなく「自由に合流させない」

戦闘についても考えてみます。

ハメ組は数十人いるとはいえ、

「50人でバラ一人を囲めば勝てる」

とは限りません。

念能力者同士では、戦闘力の差が大きいと人数差がそのまま有利にはならないからです。

サブは修行後のキルアを相手に戦えるほどのオーラを持っています。

バラもビスケと戦える実力者です。

戦闘経験の乏しいハメ組のメンバーが数人で組み付こうとしても、接近する途中で戦闘不能にされる可能性があります。

だから、ハメ組がスペルを使う目的は、

「一人にして数で倒す」ことではありません。

重要なのは、

ゲンスルー、サブ、バラの3人を自由に行動させないこと

です。

グリードアイランドには、対象プレイヤーを島のどこかへ飛ばす「左遷(レルゲイト)」などの移動スペルがあります。

もちろん防御スペルも存在するため、必ず成功するわけではありません。

それでも可能なら、

一人を遠方へ移動させる。

3人が同時に行動できない状態を作る。

カードを持ったメンバー自身も複数地点へ散る。

その間にツェズゲラなど外部のプレイヤーへ連絡する。

といった使い方は考えられます。

あとから能力の全貌を知っている読者視点では、これはさらに重要です。

「命の音」を一斉起爆する「解放(リリース)」には、ゲンスルー、サブ、バラの3人が親指を合わせる必要があります。

ハメ組はこの隠された条件を知りません。

そのため、

「3人を離せばリリースできなくなる」

と判断することはできません。

しかし、

「危険な3人組を自由に合流させない」

という判断自体は、リリースの存在を知らなくても成立します。

結果論ではありますが、3人を分断することは一斉起爆を防ぐことにもつながっていました。

重要なのは、

分断=倒すため

ではなく、

分断=敵の選択肢を減らし、こちらが考える時間を増やすため

と考えることです。

改善点7 ライバルと一時的に協力する

ハメ組はツェズゲラ組をゲームクリアを争うライバルとして見ていました。

しかしゲンスルーの正体が分かった時点で、状況は変わっています。

ハメ組の90種類のカードがゲンスルーへ渡れば、ツェズゲラ側にとっても非常に困ります。

つまり、

ハメ組とツェズゲラには「ゲンスルーにカードを渡したくない」という共通利益

が生まれています。

そこで一時休戦し、

「ボマーへの対応が終わるまで協力してほしい」

と持ちかける手もあります。

ハメ組は人数とカードを持っています。

ツェズゲラ側には実戦経験と判断力があります。

特にハメ組に不足している、

「強い相手とは正面から戦わず、カードと移動を使って時間を稼ぐ」

という発想を持っているのがツェズゲラです。

競争相手だからといって、常に敵である必要はありません。

状況によって敵と味方の関係を組み替えることも、組織が生き残るためには重要です。

もしハメ組が冷静だったら、どう動けばよかったのか

ここまでをまとめると、ハメ組に必要だったのは、

「50人でゲンスルーたちを倒す作戦」

ではありません。

相手のほうが圧倒的に強いことを前提として、

カード、人数、スペルを使って交渉力をできるだけ残すこと

です。

たとえば次のような動きが考えられます。

  1. 誰も単独でゲンスルーへ攻撃しない
  2. 大天使の息吹を使ってジスパーを治療する
  3. 指定ポケットカードを複数のメンバーへ分散する
  4. カード保持者も一か所に集めず、可能なら散開する
  5. ツェズゲラなど外部の実力者へ協力を求める
  6. スペルが通るなら、ボマー3人の合流を妨害する
  7. 「一定人数が解除条件を満たすたびにカードの一部を渡す」という段階取引を持ちかける
  8. 全員の安全が確保されるまで、最後のカードを手元に残す

もちろん、これでも助かる保証はありません。

ゲンスルーたちは非常に強く、しかも「解放」というハメ組の知らない一斉起爆手段まで持っています。

交渉を拒否して、そのままリリースされる可能性もあります。

だからこれは、

「こうすれば必ずハメ組が勝てた」

という話ではありません。

ただし、

「全カードを先に渡し、そのあとゲンスルーが約束を守ってくれることに賭ける」

という方法よりは、途中まででも何人かが助かる可能性を残せます。

実際、ゲンスルーたちの言う「解除」を信用しなかったアベンガネだけは、自分で除念を行ったことで一斉爆破を生き延びました。

全員を救えない状況でも、

一度に全員の運命を同じ選択へ乗せない

というのも、危機管理では重要な考え方です。

ハメ組の失敗は「弱かったこと」だけではない

ハメ組は念能力者として弱かったから負けた。

そう片付けることもできます。

実際、戦闘能力で見ればゲンスルーたちとの差はかなり大きかったでしょう。

しかし組織として見ると、問題はそれだけではありません。

カード収集という通常業務については、大人数を組織して90種類まで集めるほど成功していました。

問題は、その組織が

カード収集という一つの目的に最適化されすぎていたこと

です。

戦闘訓練が足りない。

緊急時の指揮系統がない。

一人の強者が勝手に動く。

カードという資産を失うことを恐れる。

カードを一か所に集めてしまう。

ライバルとの一時的な協力を考えない。

そして、相手の目的から交渉条件を逆算できない。

一度想定外の危機が起きると、それまで効率的だった組織が一気に機能しなくなります。

会社に例えるなら、

通常業務は非常に効率化されているのに、BCPやセキュリティ対策、緊急時の指揮系統がほとんどない組織

に近いかもしれません。

ハメ組は「平時に強い組織」でした。

しかし、平時に強い組織と危機に強い組織は違います。

カードを90種類集める能力だけでなく、

人を育てる。

資産を分散する。

緊急時の指揮官を決める。

相手の目的を分析する。

取引を分割して、最後まで交渉材料を残す。

そうした備えまでしていれば、ゲンスルーたち3人に、あそこまで一方的に主導権を握られることはなかったのかもしれません。